実はその日の朝、俺と家内はとんでもない名案(迷案!?)を思いついてしまっていた。
それは…、知る人ぞ知る“寅さん命”、ひょっとするとBB・KING以上に山田洋次監督を尊敬してやまないブルースボーイが、、産まれる前から第2子の女の子の名前を、ご存じ寅さんの妹『さくら』と名付けることを決めているくらいだし…、もしかしてもしかしたら、その子の記念すべき出産予定日に、山田監督からお祝いに“一筆”(いっぴつ)いただけないだろ〜か…、という大それた野望を抱いて、ご丁寧に成城の駅前の文房具屋で色紙を買って、油性のマジックまで用意して、会場の一角で密かに胸踊らせていたのだが、実際には当然、とてもとてもそんなことをお願いできるよ〜な雰囲気じゃない。。
「質問のある方は挙手願います!」
選ばれた人がマイクを渡され椅子に着席したまま質問をする。
「もし山田監督が成城を舞台に映画を撮るとしたらどんな映画をつくりますか?」
愚問だ…『おとうと』が成城で撮影されたことも知らんのかい!?
「さぁ…どんな作品がい〜と思いますか?」
そんな質問の数々にも、監督は優しく誠実に応対していたが、間もなく時間切れの時が近づいて、俺と家内も遂に腹をくくった。
「それでは次で最後の方にさせていただきます」
の声に、「ハイッ!」と思わず声を出して手を挙げた俺と、司会者の目が合って指を指された。
「はい、それではその男性(俺)の隣りの女性の方!」
えっ!? 家内にマイクが手渡されると、彼女は初めて席を立って喋りはじめた。
「今日はこのよ〜な素晴らしい機会を与えていただいて、本当にありがとうございました。」
そして、『おとうと』に感動して、劇場で恥ずかしいくらい涙したこと、30年以上もブルースを歌っている自分の亭主には、私が弟のよ〜に感じている“寅さん命”の弟子がいて、その若い妻も主人の愛弟子で、今日が出産予定日であること、そしてその赤ちゃんの名前を、既に「さくら」と決めていること等を淡々と語り、会場中を大いに温めると…「あつかましいお願いと承知のうえで、勇気を出して言いますが、その若い夫婦と産まれてくる“さくら”の為に、先生から一筆いただけないでしょうか!?」と、見事に言ってのけた。。wow,
しばし山田監督との心温まるやり取りがあり「では後程、別室で…」とのお返事に、家内は満員の観客から一斉にその日一番の盛大な拍手をいただいて会は幕を閉じた。
会場を立ち去る老紳士や年配の方々が「良かったね!」と声をかけてくれたり、スタッフや担当の教授が「山田先生もとても喜んでおられますょ」と言ってもらえたのも、すご〜く嬉しかった。
やがてワクワクしながら奥の通路を通って、控え室に案内されると、山田監督は優しい笑顔で出迎えて下さった。。
「女の子で良かったですね…男の子でも“寅”じゃかわいそうだしね…」(笑)
巨匠は、瞬時に全てを見通して、俺達の真っ直ぐな想いを受け入れてくれた。。
『命名 さくら 山田洋次 』
“奇跡の色紙”は幸運の証しだ。
そして、「心から強く願わないことは叶わない…」ってことを、再び思い出させて心に刻む、一連の幸せな出来事を象徴する存在だ。。なんて言うと、ちょっとおおげさかな!?(笑)
握手したやわらかい手の温もり…、巨匠・山田洋次監督は、思ってた通り偉大な人物で、とっても優しい人だった。。。
成城での光栄な一時…、その幸せな日から4日目の晴天の朝「さくら」が遂に産まれた。
姓は中野、名はさくら、人呼んで ベッピンのさくらと申します♪
以後 末永くよろしくお願いいたします♪
2010年10月31日
一覧に戻る